東京24区レビュー
国政に携わる男達のアツくハードなBLゲームです。
主人公、其扇 晟尋(そのぎ あきひろ)は、衆議院議員二年目の若き新鋭。
まだまだひよっこ議員の彼は、ある日突然渋谷を襲った未曾有のテロ事件を契機に、自身の政治家としての進退を賭けた国家プロジェクトに身を投じます。
総理大臣も羨む程の優秀なヤクザ、じゃなくて秘書の蓼丸 一貴(たでまる かずき)を従え、若手ならではの気概に溢れた政策を次々と打ち出していくのですが───
というのが序盤の概要です。
なんちゃって政界ではなく、しっかりと骨太に組まれた、極限までリアルに沿った世界観でストーリーが展開します。まるで本当に存在する国や、現代社会で起こった事件のことを取り上げているようで、最後まで緊張感を持って楽しむことが出来ます。
攻略キャラクターは3人+真相ルートを兼ねた1人で合計4人と、フルプライスのゲームとしてはやや少なめな印象を受けますが、その分1ルートのシナリオ量が半端無いので、ボリュームとしては申し分ありません。
というか、何と言っても取り扱ってるテーマが政治なので、地の文にしても会話にしてもめちゃくちゃ難しい!!(個人の感想です)
こちとら長年BLゲームプレイして来て、普段は大抵会話とかのやり取りはウィンドウ内のテキストを読み終わった段階でボイスが途中でも先に進んでたんですけど、今回初めて
「言ってることが難しすぎるので取り敢えずオートにして全部登場人物に読んでもらう」という現象が起きて、フルコンプまでめちゃくちゃ時間かかりました。いやぁ勉強になった。
しかしそこはまぁ、出て来る皆さん政治家ですので(?)、終始全くストレスにならない美声の方達ばかりで素晴らしかったです。国民のことを隅々まで考えてくれていますよ!!
以下、プレイ順に個別ルートについてネタバレレビュー。
我妻 タイガ(あがつま たいが)ルート
主人公が、渋谷で起きたテロ事件に対する総理大臣直属の「テロ特命大臣」に任命されることから、主人公のSPとして着任することでタイガルートになります。
ストーリーとしての大きなテーマは「多民族国家とレイシスト」。
日本国は広く外国人に向けて門戸を広げているような政治的スタンスを見せておきながら、その実態はまだまだ根強い排他的意識に支配され、差別や排斥、無国籍者の支援に有効な施策を取れていない。特にフラーシア共和国との混血児達の多くは、その悲惨な生まれ育ちから独自の地下コミュニティを形成していた……というところから、最終的に警視庁公安課の不正や多民族国家としての闇に迫っていくお話になります。このルートではテロ事件の真相までは明かされません。
フラーシア共和国は架空の国ですが、プレイしていると大体現代日本でどのあたりの国のことを指しているのか、想像に難くないと思います。
タイガはフラーシア人との混血で、それ故に見た目に若干のコンプレックスがあり、「自分とは何者であるのか」という帰属意識が強いのですが、そこで自分の見た目に興味を抱かない、かつ己を気負うことなく支配し、行使することが出来る、「主の器」とでもいうべき才能を持った主人公に傾倒していきます。
「タイガ!」って呼ぶと即座に召喚されて敵をやっつけるので、ペル●ナみたいな忠犬です。
GOODエンディングは2ルートあり、タイガが主人公に身も心も支配され(注:タイガは攻である)主人公の犬として生きていくことを望む「犬ルート」と、主人公と対等な人間として、日本人として生きていくことを決意する「人間ルート」に分かれます。前者だとストーリー全体としての謎は全く解けずに終わりますが、犬ルートはまさに理想の主従!!って感じなのでどちらも捨て難い……というか個人的なカップリングの好みで言うなら断然犬ルートですね…なんせ貴重な足チューがありますんで!個人的に手チューがあるといい主従認定する昔からの習わしがあるんですけど(????)、手チュー通り越して足チュー!!なかなか見られませんよ足チュー!そして対する主人公のソックスガーター!!ソックスガーターも非常にポイントが高いです。そこだけでも主従ポイント3億点あげちゃいますね!!
惜しむらくはどっちのルートもエロが来ると即終わってしまうので、タイガがその後主人公のSPを続けてられたのかどうかが知りたかったです。
いや、まぁ多分何の道理をどうねじ曲げてでも続けてるんでしょうけど…。
その他、秘書蓼丸による「犬は私だけで充分なんですよ」エンドもあります(BAD)。
白洲 武彌(しらす たけみ)ルート
主人公が属するテロ対策委員会に都知事が参入し、「東京治安委員会」なる委員会を立ち上げるところから白洲ルートに入ります。
渋谷テロ事件と並んで、このゲーム内で重要なキーワードとなる事件に「自衛官自殺事件」があるのですが、白洲都知事がそもそも都知事の座に着いたのもこの「自衛官自殺事件」の真相解明が理由になります。よって、白洲ルートに入ると自ずと主人公もこの事件の真相を追求していくことになります。その為、やはりテロ事件の真相までには至りません。
ストーリーとしての大きなテーマは「封建制度とノブレスオブリージュ」。ノブレスオブリージュは大正メビウスラインをプレイしたことがあるユーザーならお馴染みのやつですね!そこの正当な後継ルートが白洲ルートで良いんでないかと。
当初は「青二才」と称して一方的に主人公を毛嫌いする都知事ですが、ひとたび主人公の中にこの「ノブレスオブリージュ」を見出してからは、急速に心を許し共闘姿勢になります。そこからの二人はまさに阿吽の呼吸というか、国政と都政のまさに理想的な二人三脚でもって、事件の解決の糸口を掴んでいく、という展開になっています。とにかく頭の良い二人なので、真相解明までのプロセスに全くと言って良いほど無駄や無理が無いのがシナリオを追っていて大変心地良く、また、要所要所で舌戦に次ぐ舌戦をこれでもかと楽しむことが出来、とても痛快です。しかしながら、こちらもGOODエンディングが2ルートに分かれており、それが主人公の一言がきっかけでその後の白洲都知事の人生まるっと左右される展開になっているので、彼もまた、どんなに強くあろうとも主人公含め「他人」と関わらずには生きてはいけないことの暗喩のようで非常に興味深いですね…
エンディングのうちの一つは主人公が離党し、同時に国政に返り咲いた白洲と共に新党を立ち上げる「共闘エンド」で、こちらは自衛官自殺事件については決着はしますが本来の真相は明かされません。ただ離党したことでよりギラついたセクシーな主人公が見られるので、これはこれでカップリングとしては大変魅力的な終わり方です。
もう一方も「共闘エンド」なのですが、主人公は離党せず、そのまま国政と都政の二人三脚を続けていく終わり方で、自衛官自殺事件についてきちんと踏ん切りをつけて真相を明らかにしていくのはこちらのエンドになります。こっちは何というか、月9で放送すれば良いと思うよ……めちゃくちゃトレンディドラマみたいな終わり方するから……この時空の都民になって都知事と衆議院議員の恋❤️、全力で応援したくなっちゃうから……
その他、秘書蓼丸による「ウチの先生を誑かすとかマジその身をもって償えエンド」もあります(BAD)。
東郷 遊馬(とうごう あすま)ルート
主人公が属するテロ対策委員会で、被害者救済について強く意識するところから遊馬ルートになります。
遊馬は渋谷テロ事件の最前で被害を受けた被害者の一人であり、主人公の支援企業である東郷ツーリズムの営業本部長でもあることから、主人公はまずテロ被害者に心から寄り添うことを目的に、遊馬と深く関わっていこうとします。
主人公が真相究明よりも被害者救済を念頭において行動することになるので、ここでもやはりテロ事件の真相までは明かされません。
ストーリーとしての大きなテーマは「ダイバーシティとセクシャルマイノリティ」。タイガルートの多民族国家も含め、人々に多様性が認められ、またその受容が求められる昨今、まだまだ閉鎖的な日本国いう国と、世襲制の企業が未だ抱える旧体制然とした「良い妻を娶り結婚し、子を成すことが人間としての幸せ」であるという暗黙のプレッシャー、がストーリーの根幹にあります。
遊馬はゲーム開始当初から自認するゲイなので、他と比べてBLっぽいやり取りが多い印象です。(他は犬だったりマウンティングだったりするので)だいぶ初期から主人公のことが好きで、表向きそれがバレないよう飄々としてるんですけど、裏ではセンシティブに胃を痛めていたり、モダモダ自問自答を繰り返したりしていて大変可愛いです。
そしてそんな彼に釣られてか、主人公も一緒になって国会議員としてではなく、一人の等身大の人間として彼に寄り添おうとします。但し、タイガルート、白洲ルートと違い、遊馬の心に寄り添ってあげられないと即BADになるルートが複数存在します。とにかく遊馬はセンシティブなので、まず彼の心の問題を一緒に乗り越えてあげる必要があるんですね。そこを乗り越えてあげると、被害者救済の為に国会招致で感動ポルノぶちかましてくれや、などという主人公の人でなしオーダーもヨッシャ、と任されてくれるんですが(ホントここの主人公、人非人で震える)、そこまで行かないと刃物を持ち出したり、ご無体セフレマンになったりします。まぁでもご無体セフレマンのシーンで何が怖いかって、秘書蓼丸なんですけどね。どのルートでもBADを一手に引き受ける男、蓼丸一貴……
そこさえ気をつければ末長く太い主人公のパトロンでいてくれるし、主人公の色にも染まろうとしてくれる(公式設定資料集より)、大変かっこよく可愛らしいスペシャルな「恋人」になってくれます。
蓼丸 一貴(たでまる かずき)ルート
上記3人のルートを攻略してから再度最初からプレイすると、タイガルートのテロ特命大臣に任命される時間軸から分岐するのが蓼丸ルート、かつ、グランドエンドルートです。大臣ルートから分岐する(主人公が一番出世している立場から分岐する)のが、何とも蓼丸らしいといえば蓼丸らしいですが、ここに来て初めてテロ事件の真相、そして自衛官自殺事件との関わり、更にはもっとその奥の、何重にも折り重なった日本国そのものを揺るがすような壮大な事件の真相が芋づる式に明らかになっていきます。
3人の攻略相手とも協力し、各ルートにて得ていた「渋谷テロ事件」に対する情報のピースが一つ一つ嵌っていくことで物凄いカタルシスを得られるんですが、同時に各ルートで惜しみなくその存在感を主張していた「秘書 蓼丸一貴」という男の闇が一斉に解き放たれるルートでもあるので、もう怖いのなんのって、到底心穏やかではいられません。
但し、「蓼丸一貴」は主人公の「其扇晟尋」と表裏一体なので、プレイヤーは主人公と一緒に、「其扇晟尋とは何者か」ということを解読していくことになります。
そして、結論から言ってしまうと、蓼丸ルートは厳密には彼のルートではなく、彼は「愛よりも政治」を選択してそのルートを終えます。…………。
途中、主人公を拗らせまくってる蓼丸が「もうクソデカ感情が凄すぎてお前に対する気持ちが自分でも訳分からん(意訳)」って心情を吐露するシーンがあるんですが、それに対する主人公のアンサーが、
「お前のことが誰よりも一番大切だから、俺のライバルになって、共に政治の場で闘ってくれ」……なんです……よね……
エッッッッッッッモ………
勿論蓼丸はその役割は自分にしか果たせないことを正確に理解して了承する訳で…
いやそんな……ことって……
途中「友達で秘書で恋人なんて最高じゃん!?セックスしようぜ!!」って誘ってくる主人公、小悪魔通り越してただの悪魔やんけと思ってましたが、それどころではなかった…
もうその、ブロマンスというか、互いの愛よりもこの国を背負って立とうとする二人の信念と執念が凄まじ過ぎて、プレイ後暫し呆然となりましたね……
今まで恋よりも愛よりも国政を選んだBLゲームがあったか!?!?
あってたまるか!!!!(逆ギレ)
そんなしんどい蓼丸ルートですが、本編中では蓼丸が人生のどの時点で主人公の才覚を悟り、どの段階でその後の己の人生の行く末を主人公と添い遂げんとする方向で決定したのか、詳細は明かされないままなので、過去の回想あたりが分かるとより分かりやすかったかな、と思います。が、そこはアンケートとか沢山出してFD作って貰おうぜ!
システム周りは特に不便さはありません。ルートに入ってしまえばほぼ一本道ですが、各ルート結構細かく分岐するのでEDリストがあると分かりやすかったかな~と個人的には。スチル枚数はシナリオの長さからすると多少少なめの印象ですが、その分要所要所で演出でカバーされている感じです。
音楽も素晴らしいので早くサントラが欲しい。
昨今の、諸々不安で不透明な世情である今こそ、広く万人にプレイして欲しいBLゲームだと思います。ステイホームのお供に是非どうぞ。
魔法使いと天使と悪魔 ~Two Choices of destiny~レビュー
大変硬派なBLゲームです。
舞台はファンタジーの世界、メインの登場人物は魔法使いの主人公、そしてその魔法使いのお相手となる天使と悪魔の3人。
つまりタイトルそのまんまです!
勿論このタイトルでリーマンBLだったら驚くのでそんな訳ないのですが、魔法使い、天使、悪魔というワードで思い浮かべるイメージのそのままのキャラクターが出て来てくれるので、絶対に期待を裏切られないであろうという絶大な安心感の元、プレイ出来ます。
そしてこの出て来る3人の登場人物もすこぶる大真面目!
魔法使いの主人公、ルシルは魔法使いのサラブレッドで膨大な魔力の持ち主ですが、まだ覚醒しておらず色恋も知らないピュアっ子です。
天使はお医者さんで、人間と同じように生活しながら、人間の役に立てるように日々お仕事をしている大変真面目で真摯、そしてちょっぴり天然ボケな眼鏡の好青年。
対する悪魔は悪魔なので無職。孤独に一人城の中に住まわってますが、ルシルの大きな魔力を自分の手中に収めたいが為に、ルシルに近づいて来るとても美しい魔性の見た目を持つ男性です。
この簡単なキャラ説明だけでも、絶対にプレイヤーのイメージを損ねないであろうことが分かりますよね。ゲーム本編中でも、魔法使い、天使、悪魔の各々のパーソナリティとして、汎用的な魔法、魔力の設定などが無理なく把握出来るようになっていて、自然に世界観を理解することが出来ます。
冒頭、ルシルはその身に起こった悲劇を起因として、天使か悪魔、どちらかの手を取りその後の己の運命を選択するのですが、本当にゲームの冒頭も冒頭で天使ルート、悪魔ルートと分岐する為、絶対にブレません。天使の手を取れば天使と幸せになれるか否か、悪魔の手を取れば悪魔と幸せになれるか否か、という分岐の細分化になるので、厳密な意味での三角関係にも発展しません。但し、お互いがお互いのルートにちょっかいはかけて来ます。
天使ルートのルシルは、天使のその人間に対する献身的な行いに当初は反発するも、彼の大きな博愛に触れて、自分の中にある「自分も人を愛したい」という気持ちを思い出すことが出来るようになる、という大変心温まるルートです。
人間界に少しづつ溶け込んで、少し凸凹ながらも息の合ったバディとして活躍するお話が楽しめます。
「天使が人間(魔法使い)を愛するということはどういうことか」という部分にも、丁寧に触れられています。
対する悪魔ルートのルシルは、文字通り人身御供で悪魔に対する献身を求められます。そこには二人以外の他者は存在せず、ルシルは常に悪魔を通して己との対話を続けることになるルートです。ルシルの根っからの負けん気の強さ、精神力の強さが発揮されるのはこちらです。天使ルートと対照的に頻出する様々なすけべイベントの過程で、「悪魔を愛してしまった」と気付き、そこから能動的に「悪魔を救済しよう」と自ら献身に目覚めるルシルの振る舞いはとても高潔で力強く、しかし悪魔になかなか伝わらずにその想いはまるで薄氷の上を歩くように儚くて、泣けます。
特に悪魔を失ってしまうかもしれない、と、真夜中ルシルが恐怖する瞬間のシーンの演出の美しさと来たら物凄い秀逸なので、あのシーン見る為にゲーム買って貰って損は無いと思いますね!
ていうか本当悪魔ズルイんだ…悪魔実はもう本当に最初っからルシルに命預けちゃおって決めちゃってるので、根は優しくて構われたがりでさみしんぼうで常におしゃべり聞いて欲しくて、でも悪魔なのでその肩書きやら能力やらが邪魔して大体裏目に出ては慣れない子猫のルシルに引っ掻かれる、みたいなシーンの繰り返しなので、これは……愛してしまう……人類はみな悪魔を愛してしまう…ッ
あと個人的な推しポイントとして、ルシルの寝技の時のボイスが才能に溢れてるのでそこもオススメです。可愛くてえっちな魔法使いさん最高…
そして各BADエンドにもかなりの拘りが見て取れる内容になっており、ミドルプライスであるにも関わらず大きな満足感を以て楽しませてくれます。
公式から販売されてるSS集と原画集も併せて読むと楽しさ倍増ですが、FDやドラマCDも出して欲しいですね。
BLゲーム入門書にも最適、BLゲーム玄人にも自信を持ってお勧め出来る名作です。
このシナリオ量、ED数でこの価格、実質タダでは!?!?
是非プレイしてみてください。
ラッキードッグ1+bad eggレビュー
「自分とは何者であるのか」と、誰しも一度は考えたことがあると思う。
ところがジャンが再起した後、彼の手札が全く読めなくなってバクシーは混乱します。ジャンの言わば「属性」が変わってしまった原因が、自分の飲みこんだリングにあるとは夢にも思わない。(ここについては後述します)
しかしその破滅的にも思える彼の魔性は、バクシーにとって酷く刺激的に感じられた筈です。
で、やっとここでボーイズがラブするんですけど(?)特筆しておきたいのが